ACI Column 「戦略不全」

 

世界の亀山モデル

20120106今日の読売新聞朝刊でシャープの経営再建に伴うリストラが海外も合わせて8000人超と知りました。実際にはもっともっと増えるでしょう。当初から「世界の亀山モデル」というスローガンには違和感がありました。当時は有名女優を起用した広告を日夜耳にしたものです。

固定費も変動費も他国に比べて相当に高額な日本で、特別に品質の高い製品つくりに挑むという壮大な取り組みは脆くも崩れ去りました。当初より「いつまでもつかな」と気になっていましたが、地元阿倍野の会社を心の中で応援していました。今までも何度も常識を打ち破ることをしてくれた企業ですから。

しかし、日々の報道でボロボロになってしまった様を見るにつけ、この会社に欠けるものは実効性の高い戦略だと確信しました。つまり、技術力や営業力はあっても、戦略が機能していないのです。戦略がないのではないのです。機能していないのです。

 

柔軟な発想を阻害する何かが潜む

もともとシャープは電機メーカーの中では異質な存在で、どちらかと言えば東大阪の町工場のような気風を留める数少ない大企業でした。私が前職で通信事業子会社に出向した際、シャープ出身の上司の元で働いたことがありますが、彼もシャープの良き伝統を体現する尊敬すべき技術者でした。

しかし、彼が当時すでに「柔軟な発想」が売りの会社に「柔軟な発想」を口にできない雰囲気が蔓延していたと話していました。液晶電卓など誰も成し遂げなかった分野で大きなビジネスを開拓してきた会社に、その根源とも言える「柔軟な発想」を阻害する何かが潜んでいるというのです。

それから10年。よくよく見れば、今回の事件は、技術・営業双方から長期間に渡って具申のあったであろう「柔軟な発想」を経営側が軽視した結果だということが分かりました。詳細はブログには書けませんが、輪講会や経営懇談会では、経営者の方々とこの点をよく討議します。他人事ではない。

 

戦略が機能するとはどういうことか

学者のいう戦略と実務家の戦略は少々受け取り方が違うように思います。背景や責任が違うのですから、当然かもしれません。ここでいう戦略は実務家の、特に自分の後ろが崖っぷちの経営者の持つべき戦略です。例えば、虫歯になって歯医者に行くとき、皆さんはC1で行きますか。それともC4になってから行きますか。

私の尊敬する経営者は、企業規模を問わず、C1で行きます。予防保全の観点から、虫歯になる前に定期健診に行く人もいるくらいです。反対にC4になってから、根っこまでボロボロの歯を見せながら「助けてください」と泣きついてくる経営者もいます。でもその人、本当に経営者なのですかね。

「柔軟な発想」を持っている人、それを実現させようと一生懸命に努力している人は、社内にも大勢いるはず。業績が相当に悪化する前に、そのような人たちの具申を聞き入れて(つまりは自社の戦略に取り入れて)、何とか社業を好回転させられるのも経営者のはずです。いや、経営者にしかできません。

 

今日からできること

一度決めた戦略だから、中長期経営計画だからと、機能しない戦略をそのまま採用するのは止めにしましょう。戦略は立案するだけのものではありません。戦略は機能してこそ、戦略の戦略たる所以があるのです。機能させるためには、「柔軟な発想」を拠り所として、時宜を得たものに修正する勇気を持ちましょう。

シリコンバレーでは至極昔から当たり前のことかもしれませんが、上辺だけ真似してもうまくいきません。自社の身の丈に合った戦略が必要です。経営者と歯車の合う助言者(参謀)も大切です。何よりも意見を具申してくれる従業員なり取引先なり、そのような関係者が居てくれることが宝なのです。

戦略は不全になってからでは、もうどうしようもありません。内臓と同じです。元気なうちに、小さな会社でも、信頼できる人と一緒に見直しましょう。MBAホルダーが沢山いるから大丈夫なのではありません。きちんと経営者自身が取り組むことが大切なのです。そしてそれはあなたにしかできません。

(亮)